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アメリカの病院で働く管理栄養士に「栄養ケアプロセス」について聞く〈2〉

アメリカの外来栄養指導報告書はどのようなものなのでしょう?

 「栄養ケアプロセス」の本場、アメリカの総合病院で外来栄養指導を担当する管理栄養士の美好さんから、「報告書」をテーマに2回目のレクチャーを受けました。

 前回のレクチャーで、外来栄養指導に対する民間医療保険での保険料の給付決定の基準は、多くが「栄養ケアプロセス」に基づいた介入であること、報告書にはPESの表記があることが盛り込まれていることだそうで、管理栄養士が書いた「報告書」を定期的にチェックする保険会社もあると伺いました。

 このことから、「栄養ケアプロセス」が一般にも浸透し、第3者によって栄養相談の善し悪しを評価する材料になっている現実を知り、アメリカの管理栄養士の誇りや自信を感じずにはいられませんでした。実際に、どのような「報告書」を使っていらっしゃるのか、興味を持たずにはいられなくなりますよね。

報告書の実際を見せていただきました!

 美好さんが示してくださった報告書は「A4」1枚で、病院で作成されたものだそうです。「栄養ケアプロセス」の4つの過程が、順番に、項目立てされていました。栄養アセスメントには、データが直接、記入できるように、身体計測、生化学検査やライフスタイルなどの小項目が設けられ、次に栄養評価、さらに栄養診断と続きます。もちろん栄養診断は、標準用語を使用しPES で記入するそうです。続いて、栄養介入の項目では目標の設定や具体的な行動計画などの小項目が設けられ、モニタリング計画、評価となります。

 それぞれの項目は、箇条書きで1~2行程度書くことで埋まる程度のスペースが設けられていました。順を追って聞き取りをすれば「栄養ケアプロセス」を確実に進められると感じましたし、漏れなく記入もでき、効率的で、誰が見ても、「栄養ケアプロセス」を適切に運用していることを評価できる明快な様式だと感じました。

報告書を埋めればそれでよいってものではない!

 美好さんからは、「栄養ケアプロセス」を適切に進めるために、「報告書」に示されたこと以外にも、重要な事があると伺いました。

 報告書の大半は「栄養ケアプロセス」で標準化された用語で端的に記入されている様子でしたが、それらの用語を引き出すためには、「面談」、つまり、PESに至るまでの患者とのやり取りの中に工夫や配慮がたくさんあるとおっしゃるのです。

 その1例ですが、 実際の面談では、栄養アセスメントデータと関連付けて、時間内に、速やかに、的確に栄養評価をしなくてはならないことから、日ごろから、医師の依頼や病態ごとに、エビデンスを元に、患者の栄養問題をあぶりだせるアセスメント項目を精査し、漏らすことなく聞けるように訓練しているそうです。「報告書」では見えない、濃厚で科学的な「カウンセリング」が行われているのだと実感しました。

患者さんの気持ちに寄り添うということの本質は?

 特に、アセスメントでは、患者が栄養相談によって、どのようになりたいか、どんな方法で目標をクリアしたいかを必ず伺うそうです。患者は、医師から栄養相談を勧められたからと言って、すぐに管理栄養士を頼る方ばかりではないそうで、まずは、自ら目標を作り自分流のライフスタイル改善方法で、問題の改善に取り組む人も大勢いらっしゃるそうです。その取り組みは、必ずしも医師が期待する方法ではないこともあるようですが、そんな時は、決して否定せず、患者の考えに沿ったアドバイスを最初に行うそうです。

 このことが、管理栄養士が、栄養診断や介入目標を設定するうえで、また、目標を達成するうえで、最重要事項になると話されました。患者の考えに沿った有効なアドバイスを優先すれば、必ずそのアドバイスは、容易に受け入れられ、行動変容に繋がるはず。さらに、そのアドバイスが、医師の指示に基づき管理栄養士が栄養診断し立案した介入計画にも良い影響を与えるものであるならば、医師にとっても、患者にとっても、納得の行く結果が得られることに繋がるというわけです。

 「報告書」には、改善目標に対する患者の取り組み意欲について検討した結果を記入する欄が設けられていましたが、正に、ここが患者の意向を把握する役割を担っています。そして、この手順を踏まえ患者の意向を尊重できれば、栄養指導の善し悪しまで決まるわけです。これが「患者さんに寄り添った栄養指導」と言えないでしょうか。栄養ケアプロセスを扱ううえで最重要とおっしゃる意味の深さに「はっ」とさせられました。

日本の栄養指導というと・・・。

 日本でもこのような『人間栄養』に基づく栄養介入が少しずつ進められてきまましたが、その結果として、保険診療の範疇は広がり、がんや低栄養、摂食嚥下にも栄養食事指導として算定することが近年、認められています。そのほかの病態では、従来通り、糖尿病食、腎臓病食といった「特別治療食」に対する「指示」と、それに伴う「栄養食事指導」が行われた場合に算定が可能とされています。もちろん、栄養指導の技術の向上に伴い、患者さんの意志、考えの尊重は重要であることは浸透されてきていますが、指導料を算定することも管理栄養士の役割であり、つい、治療食のレクチャーに時間を費やしてしまうというのも現実のように思います。

 美好さんから、そのことに対し興味深い意見をいただきました。

 「日本には食文化に基づく主食・主菜・副菜という「食事の組み合わせ基準」が浸透しており、そのツールを介すると、行動につながるか、否かは別だけれど、患者には理解はされやすいのではないしょうか。アメリカにはそういった食文化は無く、朝からハンバーガーを食べるのは当たり前だし、望ましい食事の組み合わせを示す共通のツールも無い。だから、どういった食べ方が栄養問題につながるか、おおよその食生活と身体状況を確認しつつ、体重や生化学検査結果にもたらす栄養問題を明らかにしながら栄養診断を行い、患者とも納得の上で行動変容につなげるわけなのですよ。」

私はこう伺った時に、もちろん基準を活用した栄養相談は必須と思います。しかし、良い行動につなげるためには、まずは栄養診断、そして患者さんの意向の把握、そして「寄り添う」ことが大切という「栄養ケアプロセス」にある「技」の実行が大前提なのだと思いました。「栄養ケアプロセス」の定着に力を入れたいと思いました。

さて、今回のテーマの「報告書」に戻ります

 日本でも、外来栄養食事指導料の診療報酬点数を算定する場合、「管理栄養士は患者ごとに栄養指導記録を作成するとともに、指導内容の要点及び指導時間を記載すること」と書かれています。特段、様式の基準は示されていませんが、栄養診断を記録する際は、日本の多くの医療施設で活用されているSOAP様式の「A(Assessment)」部分に記録することが、現在、推奨されています。その他の記入枠に「栄養ケアプロセス」の考えに従って、もれなく記入できれば完璧ですが・・。

 栄養ケアプロセスの過程を踏まえ、必須項目をあらかじめ報告書に作っていけば、手順の抜け落ちが防げるかもしれない。質の高い栄養指導を目指し、さっそく弊社でも報告書フォームの見直しに取り組んでいこうと思います。