入院患者に対するアセスメント内容をご紹介いただきました
「栄養ケアプロセス」の本場アメリカの総合病院で働く管理栄養士の美好さんとの3回目のレクチャー&コンサルの内容をお届けします。前回のレクチャーでは外来栄養指導のアセスメント・記録書を見せていただきましたが、今回は美好さんが使用している入院患者に対するアセスメント・記録書をご紹介いただきました。
美好さんが働く病院では、病棟またはICUに患者が入院すると、主に看護師が病歴、身長・体重や食欲等の一定項目で栄養スクリーニングを行い、栄養介入が必要な方を抽出し、管理栄養士に引き継がれ、2日以内に栄養アセスメントが実施されることになっているそうです。特に、低栄養に陥っていないかという視点を重視しているとのことです。
「栄養ケアプロセス」のアセスメントデータ「AD:Anthropometric Measurements 身体計測」として、身長、体重(通常・入院時)、BMIを記録し、「PD:Nutrition-Focused Physical Findings 栄養に焦点を当てた身体所見」として、皮下脂肪の減少や筋肉の喪失の有無を確認するためにフィジカルアセスメントを実施するとのこと。頬や眼球の落ち込み具合を見たり、肩の後ろの筋肉(三角筋)から上腕、鎖骨などを触ってのアセスメントはたくさんの症例を重ねているからこそ、できることなのでしょう。
記録表にはSubcutaneous Fat Loss(皮下脂肪減少)の項目として、Orbital(眼窩)、Triceps(上腕三頭筋)、Ribs(肋骨)、Muscle Loss(筋肉の喪失)の項目としてTemporal(こめかみ)、 Clavicle(鎖骨)、Deltoid(三角筋)、Scapula(肩甲骨)、Interosseous(骨間筋)、Quadriceps(大腿四頭筋)、Gastrocnemius(腹筋)などの項目があります。私は、病院では計測できる項目でアセスメントが成り立っていると思っていたのですが、フィジカルアセスメントも重視しているのですね。
私は在宅訪問にも従事していますが、体重測定ができない時はこれらのフィジカルアセスメントには特に注意を払います。病院でも体重測定ができない場合は多いそうで、栄養に焦点を当てた身体所見の観察は重要なアセスメント項目だということが改めてわかります。その他にEdema (浮腫)の項目もありましたが、在宅訪問でも重要なアセスメントですね。
推定エネルギー必要量はどうやって算出しているの?
記録票の栄養処方欄には、「Total Energy Estimated Needs」(推定必要エネルギー量)と「Method for Estimating Needs」(必要量の推定方法)の記録欄が初めにありました。この記録票の2行から、アメリカの管理栄養士は入院時に、責任を持って個々の推定エネルギー必要量や栄養量を設定しているということがうかがわれました。エネルギー必要量の推定は、Mifflin St Jeor Equation やPenn State Equation ( 呼吸器が必要な患者さんの場合)という方法をよく用いるそうです。あまり日本では聞きなれない方法ですね。これらについてネット検索をして、わかりやすく書いてあるサイトを見つけたので下記にご紹介しておきます。
Mifflin St Jeor Equation https://www.calculator.net/bmr-calculator.html
Penn State Equation https://www.mydietmanual.com/Home/CalculationLoad/15
弊社が関わる診療所での外来栄養食事指導や特定保健指導、在宅訪問でも、管理栄養士は対象者の推定エネルギー必要量とその設定根拠を明確にし、栄養計画を設計するように心がけています。アセスメント記録票や指導報告書にこれらを記録することは、他職種にも栄養管理の内容を共有していただくことができます。
私がこれらの領域で仕事を始めた当初、他職種に比べて、管理栄養士は何をしているかが見えづらいように思えたので心がけたことですが、この2行を示すことで医師や看護師の方々が安心して私達に栄養管理を任せてくれているという実感につながっています。記録書(報告書)に栄養診断やこれらの記録を加えることで、管理栄養士以外の職種もひと目で、対象者の解決すべき問題点や栄養介入の方針を確認できることになり、他職種協働で対象者の健康管理に貢献できることにつながる重要なことだと思いました。
「Nutrition Diagnosis-Related Care」はアメリカの管理栄養士のバイブルのようです
「Nutrition Diagnosis-Related Care」という書籍を紹介していただきました。これは360以上の疾病と関連する栄養診断、エビデンスに基づく栄養療法が書かれており、アップデートを重ね2015年に第8版まで出版されているようです。美好さんは学生の頃や管理栄養士の仕事を始めた時には、とても参考になったとおっしゃっており、アメリカの管理栄養士の皆さんにとって、バイブルなのかしら?と思いました。弊社でもアマゾンで検索し、さっそくKindle版を購入!
私は慢性疾患に関わっているので、糖尿病や心血管疾患について読んでみました(Google翻訳が大活躍!)。疾患ごとに病態やアセスメント・モニタリング・評価項目、栄養介入の目的、食事・栄養の介入内容、薬剤との関連、栄養教育・カウンセリングのポイントなど栄養管理で最低限おさえておきたい内容が、疾病の疫学やガイドラインに基づくエビデンスに基づき4~5頁くらいにまとまっています。
例えば、高血圧の章では、1日に必要なナトリウム量や減塩に関連する栄養成分表示の抜粋、食卓塩を片付ける提案など、対象者の行動変容を促す動機づけに役立つような視点で書かれてあるということが印象的です。今年11月に第9版が発売されるとのことで、きっと急性期、慢性期の栄養管理におけるバイブルとして長く愛読されているのだろうと思います。
次回は美好さんがよく使う栄養診断について教えていただく予定です。皆様も美好さんにアメリカの管理栄養士の活動や栄養管理について、聞きたいことがありましたら、弊社までご連絡くださいね!
ご質問等の件名は「アメリカの管理栄養士について」で、下記までお願いします。
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